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Wed2015.05.06


プリズンホテル 3 冬 浅田次郎

プリズンホテル 3 冬 浅田次郎
集英社文庫

2015.5.3

1 「あんたァ……
  もうどこにも行かないどくれよ……
  もうどこにも……」
   ――薄幸な女は夜汽車の窓にもたれて言った。

2 「死んだ(ステルベン)かどうかは私が決める。
  ここでは私が法律よ!」
   ――看護婦長は怒鳴った。

3 「なんだと、客だあ?
  てめえ、ヨタ飛ばすのもたいげえにしろ!」
   ――番頭は受話器に噛みついた。

4 「俺の今夜の宿は、あれだ」
   ――山男はピッケルの先を吹雪の峰に向けた。

5 「おやじが、迷惑をかけちまって。
  すまねえ、この通りだ」
   ――仲蔵親分は畳に両手をついた。

6 「いらっしゃいやし、狭え世間はお互え様でござんす。
  まずはそちらさんから、お控えなさっておくんなさんし」
   ――番頭は客を迎えた。

7 「おォやァのォ意見ォ承知ィーでェ
  すねてェー、だっ!」
   ――小説家の歌声が真夜中のロビーに響いた。

8 「いいか小僧。
  死んでもいいというのと、死にたいというのは大ちがいだ。
  一緒くたにするな」
   ――山男は恐ろしい声で言った。

9 「包丁一本さらしに巻いたって
  ……べつに命はかからねえもんなあ」
   ――板長は頑固一徹の顔を歪めた。

10 「お願いです、先生。
  あたしのこと、
  好きだって言って」
   ――美しい女は小説家をかき抱きながら言った。

11 「こんな、誰じゃあ、
  どっこのもんじゃあ!
  殺(と)っちゃろかい!」
   ――バーテンはカウンター越しに拳銃を構えた。

12 「ウワッ! カチコミヨ!
  カシラッ、スクランブルダヨー!」
   ――ゴンザレスは玄関から転げこんだ。

13 「そんなの、知ったこっちゃないわよ~~
  不景気なのよ~~リストラなのよ~~」
   ――死神はスノーモービルの荷台で声を慄わせた。

14 「だったら医者なんかやめて、
  お坊さんにでもなればいい。
  あなたにはお似合いよ」
   ――婦長は医者を罵った。

15 「勝手に死ねよ。
  俺はおまえみたいな女は大っ嫌いだ。
  ――おまえなんか死んじまえ。毒のんで死んじまえ」
   ――小説家は冷ややかに言った。

16 「僕は一生けんめい考えたよ。
  死なないですむ方法だって、
  ずっと考えてきたよ」
   ――少年は山男のさし延べたザイルを力いっぱい引いた。

17 「お客人、お待ちなせえ。
  唐突ではござんすが、折り入ってご相談が」
   ――仲蔵親分は二の腕の彫り物を撫でた。

18 「人間には生きる権利があるだろう。
  だったら死ぬ権利もあるんじゃないか?」
   ――医師は背筋を伸ばして言った。

19 「お客様のお訊ねになったこどだけに
  お答えするのがわたくしの仕事ではございません」
   ――支配人はいつに変わらぬ笑顔を向けた。

20 「あれこれ考えるな。
  男の選ぶ道は
  迷うほど多くはない」
   ――山男は追いすがる少年を叱りつけた。

21 「待っててよ、みんな。
  私が行くまで、ぜんぶ動かしとくのよ!
  止めるな。ひとつも止めるな!」
   ――婦長は雪晴れの青空に向かって叫んだ。

あとがき
解説  雨宮塔子


裏表紙より。

阿部看護婦長、またの名を<血まみれのマリア>は心に決めた。温泉に行こう。
雪に埋もれた山奥の一軒宿がいい……。大都会の野戦病院=救命救急センターを
あとに、彼女がめざしたのは――なんと我らが「プリズンホテル」。真冬の温泉宿に
つどうのは、いずれも事情(ワケ)ありのお客人。天才登山家、患者を安楽死させた医師、
リストラ寸前の編集者。命への慈しみに満ちた、癒しの宿に今夜も雪が降りつもる。


埋めちゃうの
雪の中に
もー清子がさっぱりわからない。
ハッピーエンドでよかった。

大騒動にすっかり忘れてしまいそうだが、平岡医師の苦悩が深い。

相良直吉は死んだ。孫のような三十五歳の内科医に、人生最悪の不幸を
体験させられ、およそ考えつく限りの拷問を受け続けたあげくに死んだ。

先進の延命療法――それは医学という名の暴力だと、平岡はそのとき
はっきりと思ったのだった。

自分は延命治療の名のもとに、八十半ばの老人をいたぶり殺したのだと
思った。いたぶり殺すのが医療であるのなら、一本の注射で安楽に殺す
ことが医療でないはずはないと、平岡は確信したのだった。


…20年前からそーなのか…


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